あがた森魚の「大寒町」を聴くと、なぜか故郷・函館を思い出す。
港に吹く風、海へと続く坂道、冬の街を包む鉛色の空。函館の風景が、
そのまま歌の向こう側に透けて見えるような気がする。
「大寒町」
寒さの底に沈んだような曲名なのに、耳を傾けていると、
不思議なほど昔の景色が浮かんでくる。港の匂いも、坂道の向こうの海も、
若かった自分も。記憶の中では、何ひとつ失われていない。
けれど、それは記憶の中だけの話だ。
故郷は遠くなり、街は変わり、自分もすっかり歳を取った。
あの頃に戻りたいと思っても、戻れるのはせいぜい歌の三分間くらいのものだ。
寒いのは北国の街だけではない。どうやら、思い出というものも、
歳月の中でずいぶん冷え込んでしまうらしい。
それでも、あの歌を聴けば、まだ帰れるような気がする。
帰る場所が残っているのか、帰りたい自分が残っているのか。
その答えが出る頃には、たぶん、もう一度函館へ行く理由もなくなっている。
