嗚呼、青春の一曲。最后のダンスステップ・あがた森魚・緑魔子

若造の頃、デザイン会社の慰安旅行で有馬温泉へ行った。

そこのダンスホールで、当時の部長と受付嬢が踊っていた。
聞けば不倫カップル。世の中には、社員旅行まで持ち込んでくるドラマというものがあるらしい。

あがた森魚と緑魔子の「最後のダンス・ステップ」を思い出すような曲が流れる。

あがた森魚のファンだったオレは、二人のドラマチックな踊りにすっかり見入ってしまった。
十八歳の朝子が夢見るような、甘くて、少しばかり退廃的な世界。若造だったオレは、
感動して泣きそうになったのである。

恋愛というものは、ずいぶん美しいものらしい。少なくとも、あの頃のオレにはそう見えた。



そして現在、あの頃の部長の年齢をとうに超えた。

違いすぎるぜ。

モテ方も違えば、脚の長さも違う。ダンスホールで女性をリードするどころか、
今では自分の老化現象にリードされっぱなしだ。

顔の造りだけなら、若干こちらが勝っているような気もするが……
いや、これは審査員が自分ひとりなので、あまり信用しない方がいい。

それでも、この曲を聴くと、あの夜のダンスホールがよみがえる。

青春とは、二度と戻らない時間のことだと思っていたが、どうやら違うらしい。
昔の自分が、こちらの都合も聞かずに、音楽と一緒にひょっこり現れることなのだ。

ただし、現れるのは青春だけで、脚の長さもモテ期も一緒には戻ってこない。

人生、なかなかうまくできている。


目次