THE LIFE AQUATIC・デヴィッド・ボウイ


奇妙な映画から生まれた、「ポルトガル語のボウイ」

いつだったか、ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』を観た。まあ、まっとうな映画かと言われれば、かなり怪しい(笑)。
深海探査船を舞台にした、どこかとぼけた奇妙な映画だ。その中で、乗組員役のセウ・ジョルジが、ストーリーの進行とはまったく関係なく、突然デヴィッド・ボウイの曲をポルトガル語で歌い始める。最初は「なんだ、これは?」と呆然。
ところが、聴いているうちに、その歌声とポルトガル語の響きが妙に美しくて、すっかり引き込まれてしまった。

奇妙な映画から生まれた、「ポルトガル語のボウイ」。気になってセウ・ジョルジのアルバム『The Life Aquatic StudioSessions』まで聴いてみた。これがまた、どえりゃ~驚きのアルバムだった。

グラム・ロック時代のボウイの曲が、サンバやブラジル音楽の空気の中にすっぽり移植されている。
知っているはずの曲なのに、まるで初めて聴く歌のように聞こえる。劇中で歌われた5曲に加え、さらに8曲のボウイ・ナンバーを収録。セウ・ジョルジの歌声が、ボウイのメロディに潜んでいたメランコリックな部分を、思いがけない形で引き出している。カバーの面白さって、結局こういうところなのかもしれない。原曲を忠実に再現するのではなく、別の音楽と出会わせることで、元の曲に隠れていたものが突然見えてくる。

メロディの美しさと、異種交配の妙。
そんなことを思わせる、実に面白いカバーだった。


Seu Jorge – Lady Stardust

若い頃、グラム・ロックにどっぷりハマった時期があって、ボウイのアルバムも何枚か持っていた。当時のボウイは、今のような誰もが知っているスーパースターというより、オレの中では「知る人ぞ知るカルト・スター」だった。

『戦場のメリークリスマス』で坂本龍一やビートたけしと共演した頃になると、すでにだいぶ有名になっていたが、オレにとってはむしろ、その前のボウイのほうが印象に残っている。
そして『Let’s Dance』。
カルト・スターから、茶の間にまで届くロック・スターへ。
それはボウイにとって大きな転換だったのだろうが、オレはそのあたりから、なぜか彼の音楽を聴かなくなってしまった。だから2016年にボウイが亡くなったと聞いた時も、最近まで聴いていたミュージシャンが亡くなったという感覚とは少し違った。

若い頃に聴いていた、あの頃のボウイ。奇抜な衣装、妖しい雰囲気、グラム・ロック、
そして「スター・マン」。オレの中では、あの頃のボウイがそのまま歳を取らずに残っている。
だから『ライフ・アクアティック』で、突然ポルトガル語のボウイを聴いた時、ちょっと昔に戻ったような気がしたのかもしれない。映画そのものより、思いがけないところから昔の記憶を引っ張り出された。そんな映画だった。



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