ナタリー・デセイ《ヴォカリーズ 作品34 第14番》
言葉のない歌である。言葉がないからこそ、声のぬくもりも吐息も、
余計な説明抜きで胸に忍び込んでくる。人間、言葉が多ければいいというものでもない。
この曲といえばアンナ・モッフォを思い浮かべる方も多いだろうが、
今宵はナタリー・デセイ。フランスの名ソプラノである。
きらめくような美声に、ふと翳る繊細さ。
澄み切った声の奥に、どこか妖しい寂しさが潜んでいる。
華やかなのに嫌味がない。可憐なのに、どこか危うい。
そもそもオレにとって、歌手の美声と美貌は車の両輪。
片方だけで満足しろというのは、少々無理な相談である。
ましてやソプラノともなれば、耳だけでなく目にも責任を持っていただきたい。
そんな勝手な鑑賞基準はさておき、夜更けに聴くデセイの《ヴォカリーズ》
声が消えたあとに残る、あの淡い余韻がいい。
音楽に酔ったのか、まあ、人生の大半は、
こういう曖昧なままにしておくほうが幸せなのかもしれない。
