今宵は、ビージー・アデールのピアノで
「I’ll Never Smile Again」
彼女の演奏には、不思議なくらい力みがない。
変に尖っていない。ジャズだからといって、難しい顔をして聴く必要もない。自然体で、肩の力が抜けている。それでいてリズムはしっかり刻まれ、決して甘ったるくもならない。曲を自分のものにしてしまうのではなく、もともとその曲が持っている美しさを、そっと磨き上げる。うるさくない。押し付けがましくない。なのに、いつの間にか耳を傾けている。
そんなピアノだった。
メロディの美しさをそのまま生かしながら、エレガントで洗練された空気を加えていく。ジャズ・ファンだけでなく、ポップスを愛する人たちまで惹きつけた理由も、たぶんそこにあるのだと思う。夜、酒を少し飲みながら聴くのもいい。何も考えず、ただ部屋の灯りを落として流しておくのもいい。
2022年1月23日、ビージー・アデールは84歳で人生の幕を下ろした。
誰にでも、いつか最後は訪れる。頭ではわかっているのに、好きだったミュージシャンだけは、どこかでいつまでも演奏を続けているような気がしてしまう。
レコードの針を落とせば、
CDの再生ボタンを押せば、
そして今夜もまた、この曲を流せば——
彼女のピアノは、何事もなかったように静かに鳴り始める。だからなのかもしれない。音楽を残した人は、完全にはいなくならない。
今宵も、いいピアノです。
