刀剣「日本の時代小説を描いた男」挿絵画家・中一弥


時代小説の愛読者なら、中一弥の挿絵を見たことがあるだろう。

池波正太郎「剣客商売」の秋山小兵衛は小柄で飄々としていながらも、いかにも武芸者だと思わされるし、たゆとう大川の流れに沿って民家が立ち並ぶ風情は、ああ、江戸の街ってこんな感じだったのだろうなぁ、とつい見とれてしまう。緻密な絵というのではないが、余白に詩情があり確かにその時代の空気が感じられるのだ。

この本は、104歳で亡くなった挿絵界の最長老だった中一弥の聞き書きである。挿絵一筋に70年以上のキャリアを誇るだけに関わった作家の数も多く、直木三十五、野村胡堂、山本周五郎、司馬遼太郎、藤沢周平…等々。過ごしてきた人生がそのまま日本の時代小説の歩みと重なる。挿絵画家の評伝や研究書は極めて少ないので、時代小説史の空白を埋める意味でも本書は貴重だ。中一弥の仕事が減り、せっかく集めた古典籍を質に入れて暮らした話しなど、興味深い話しが次々に出てくる。
時代小説をふだん読まない人にも楽しい本といえるだろうなぁ。



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