祖母の本棚


オレがまだ北海道にいた頃、祖父は漁師で、祖母はその手伝いをしていた。閉鎖的な漁師町だから、当時としてはかなり「ハイカラなばあちゃん」だったらしい。もっとも、言い方を変えれば、周りからは単なる「変わり者」だったんだろう。

ばあちゃんは、よく言っていた。

「漁師なんて大嫌い」

漁師の女房が、それを言っちゃおしまいだろうと思うのだが、本人はいたって平気だった。飲み物はお茶よりコーヒー。洋楽が好きで、映画も好き。本も好き。仕事そっちのけで喫茶店や映画館へ出掛けた、なんて武勇伝もよく聞かされた。たぶん、周りの奥さん連中からすれば、かなり鼻につく女だったんじゃないかと思う。そんな祖母の本棚には、推理小説、純文学、海外小説まで並んでいた。カギッ子だったオレは、学校から帰ると近所の祖母の家へ行き、その本棚から勝手に本を引っ張り出して読んでいた。


オレの活字依存症は、どうやらあの頃に仕込まれたらしい。ろくでもない英才教育である。

オレが名古屋にいた頃、北海道から遊びに来たばあちゃんは、博物館や美術館をはじめ、毎日のようにひとりでどこかへ出掛けていた。「長い人生の中で、今が一番楽しい」80を過ぎたばあちゃんが、そんなことを言っていた。普通なら「昔は良かった」とか「もう年だから」なんて言いそうな年齢なのに、まったく逆だった。しかも、オレの部屋に山のように積んであった数百冊の本まで、数ヶ月で読破してしまった。……どんな80代だよ。

亡くなる数年前、多治見に遊びに来たときのことも忘れられない。車で駅まで迎えに行ったのだが、いくら探しても見当たらない。まさかと思って駅前を見回したら、ロッテリアでチキンを食っていた。80過ぎのばあさんが、ひとりでロッテリアに入り、チキンを食っている。なかなかいないぞ、そんなばあさん(笑)。

考えてみれば、オレの好みやミーハー度も、どうやら祖母の遺伝子をかなり濃く受け継いでいるらしい。本が好き。映画が好き。音楽が好き。面白そうなものには、とりあえず首を突っ込む。年齢だの、世間体だの、「普通はこうする」だの、そんなものはあまり気にしない。そう考えると、オレが少々変わっているのも仕方がない。なにしろ、育ての親があのばあちゃんの本棚だったのだから。そして今になって思う。オレのミーハー癖も、節操のなさも、好きなものを好きと言ってしまうところも――

どうやら全部、ばあちゃんの遺伝子らしい。

……まあ、今さら返品もできないけどな。


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